随分前に、ニューヨーカーの間では中国人のナニーをつけて、子どもに中国語を覚えさせることが流行っているという記事をいくつか読みましたが、その流れはとうとう陸の孤島スイスにまでやってきたようで、6月22日のSonntagszeitungに
こんな記事が掲載されました。
かいつまんで内容を説明しますと、幼い子ども達が中国語を覚えるために中国系の女性が運営している保育園に預けられている、と。
記事の中ではアメリカの中国語ブームのきっかけはJim Rogersが自分の子どもに中国語教育をしたことを本に書いたことだ、とあり、アメリカの中国語ブームのきっかけを知りたいとずっと思っていた私は、なるほどと思いました。
フランス語のような、英語に「比較的」近い言葉でなく、中国語のような系統の違う言葉を必要のない子ども達にそこまでして学ばせるのはなぜなんでしょう?
「21世紀の中国は19世紀の大英帝国、20世紀のアメリカ合衆国に匹敵する存在になるから。」
「世界でもっとも難しい言葉だから大人になってからでは覚えられない。」
いろいろ理由はあるようですが、この2つがどのニュースでもよく目にする理由のようです。
でも、中国語が話せることが、21世紀を生きていく子ども達にとってそれほど重要でしょうか?
中国語がばっちりなら、ビジネスチャンスが広がって経済的に有利なポジションに付けるんですか?
そう考えている親が、母語も怪しい子ども達に中国語を習わせようとやっきになっていると思うのですが、冷静に考えてみた場合、非漢字圏に生活している子どもが1日数時間中国語を話す機会があっても、読み書きできるようになると思いますか?
或いは、読み書きできなくても「ペラペラ」話せるようになれば、それがビジネスで有利になるんでしょうか?
考えられる反論としては、「ナニーや託児所はスタートであって、将来的には座学で読み書きの修得も視野に入れている」のかも知れません。
上に書いた記事でも、チューリッヒのインターでは中国語のコースが開講されていて、既に定員一杯だとあります。
週に何コマ授業があるのかわかりませんが、それで本当に使える中国語が身につくのでしょうか?
私自身はそこまで楽観的ではありません。
子ども自身に中国語を身につけたいという気持ちがなければ、笛吹けど踊らずになるんではないでしょうか。
20年後、30年後、中国語と母語のバイリンガルで成長した子ども達が全員親の希望どおりビジネスの世界で国際的に活躍するのでしょうか?
仮にうまく成長して中国語でビジネスできるまでになったとして、その時中国は本当に21世紀の超大国になっているのでしょうか?
超大国でなくても、普通話が今以上に中国国内に浸透しているのでしょうか?
子どもの時に母語とは系統の違う外国語に触れる経験をすること、異文化に触れることは子どもの成長にとって意味なる重要なことだと思います。
でもそこに将来の成功という親の打算が入り込んだ場合、子ども達は中国語をどう受け止めるんでしょうか?
実は興味がないのに仕方なく中国語を習っている子どもを12人知っているんですが、そのうち11人は中国語が嫌いになったそうです。(残り一人は好きでも嫌いでもないとか)
好きでもないし、必要でもない漢字を、いくら簡体字とはいえ覚えなくてはいけないのは、続かなくて当たり前かも知れません。
同じ先生に中国語を習っている青年は、高校生の時に中国語に興味を持って習い始め、かなり話せるようになったと思い、父親と中国旅行に出かけたそうです。
しかし都市部を出たら自分の中国語が全く通じなかったことにショックを受け、学習を辞めてしまいました。
スイスも土地によって方言はかなり違いますが、標準語が全く出来ない人というのは中国の比ではありません。
日本人が中国語を習うよりもインド=ヨーロッパ語系の人が中国語を習う方が、最初のハードルは相当高いと思います。
強いモティベーションがないと続かないんではないでしょうか。
かりにモティベーションがあったとしても、子どもに強いる負担はかなりのものになると思われます。
友達と遊んだり、好きな本を読んだりする時間を削ってまで、子ども時代は必要のない、そして将来も本当に必要かどうかわからない言葉を覚えることが、その子のためになるのかどうか...。
こういう早期外国語教育をしている親の多くは、英語、中国語に限らず、十中八九自分はその言葉ができない人が多い、というのは、私が周囲を観察していて思うことです。
そして、外国語ができない親に限って、「うちの子はペラペラだ。」だの、「うちの子の○○語は完璧だ。」だのというフレーズを口にします。
その言葉ができない人が、どうしたらペラペラだとか完璧だとか言えるのでしょうね?
この辺にも、ひねくれ者の私はどうにもうさんくささを感じてしまうのです。
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